NEC PC-98の雑誌広告を掘り出してみる[No.3]

Image: PC-9801VX Guidebook

上はNEC PC-9801VX本体に標準で付属する基本的なマニュアル"PC-9801VX ガイドブック"の冒頭。
コンピューターは何をする機械なのか、という説明から始まる。

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PC-9800シリーズの中期からPC-9821シリーズ登場直前までの雑誌広告。
各製品そのものの説明は最小限にとどめています。仕様などの情報はPC-9800シリーズ(Wikipedia)に詳しく書かれていますのでそちらを参照してください。

○PC-9801F1/F2 (1983年11月発表)(F1: 328,000円、F2: 398,000円)
PC-9801F
(月刊アスキー 1983年12月号)

640KBタイプFDDを1台または2台内蔵。
パソコンとしては珍しくVRAMの容量がメインメモリの容量を上回っている(他にPC-98XA、IBM5550の一部、ソードM343、シャープX68000などが同じ特徴を持つ。)
IBM PC/ATとの比較はこちらを参照。
IBM PC/ATの概要とハードウェア構成 [PC/AT +0]

○PC-98XA (1985年5月発表)(m1: 575,000円、m2: 695,000円、m3: 1,035,000円)

(日経コンピュータ 1985年7月8日号)

CAD用途を意識したワークステーション指向のPC。NECの本格的なワークステーションは1986年発売の"EWS4800"だが、こちらが400万円以上したことを考えると、PC-98XAはあくまで"パソコン"の域に留まっている。"PC-98"を冠しているが、従来機種とハードウェアやBIOSの互換性は低い。
主な特徴は、80286による高速処理、従来より大きい筐体、高解像度なグラフィック(1120x750ドット、4096色中16色)、24ドット明朝体フォント。
640KB/1MBタイプ両用FDDを搭載した最初のPC98である。キーボードにはNFERキー、vfキーとカーソルキーの中央にHOMEキーが追加された。この配列はEWS4800に受け継がれ、PC-9801RA以降でもHOMEキー以外は同じ配列になる。
このモデルは高価だったこと(695,000円(Model 2)+235,000円(N5923))と、PC98の主力モデルに対応したソフトウェアや周辺機器を流用できなかったため、売れ行きはよくなかった。それでもCADへの需要に応えるためか、後継機やPC-H98シリーズが発売された。

○PC-9801VM0/2/VF2 (1985年7月発表)(VM0: 295,000円、VM2: 415,000円、VF2: 348,000円)
PC-9801VM/VF
(月刊アスキー 1985年9月号)

CPUはμPD70116(V30) 10MHz。メインメモリは256KB(VF2)または384KB(VM0/2)。従来の8色表示に加えて4096色中8色表示(オプションで4096色中16色表示)が可能になった。

○ジャストシステム 一太郎の発売

1984年末にジャストシステムから発売された文書作成ソフト"日本語ワードプロセッサ jX WORD太郎"およびその後継の"一太郎"シリーズは大ヒットし、PC98の普及に貢献した。会社などで一太郎のみを使う所では、PC98マシン自体を"一太郎"と呼ぶ人もいた。特にVer.3は一太郎の最高傑作と言われ、違法コピーが横行していた時代でコピープロテクトを外したにも関わらず売り上げを伸ばした。

累計出荷本数100万本を迎える1991年11月7日までの一太郎出荷本数

jxWord太郎 一太郎 一太郎Ver.2 一太郎Ver.3 一太郎Ver.4 一太郎dash 学校パック 合計
1985 9,700 19,320 / / / / / 29,020
1986 / 9,471 59,248 / / / / 68,719
1987 / / 20,468 90,867 / / / 111,335
1988 / / 40 95,938 / / / 95,978
1989 / / / 76,241 190,969 15,184 / 282,394
1990 / / / 28,203 99,278 74,473 8,091 210,045
1991 / / / 18,712 12,418 58,187 23,321 202,638
合計 9,700 28,791 79,756 309,961 392,665 147,844 31,412 1,000,129

(月刊マイコン 1992年2月号)

jX WORD太郎と一太郎(初代)の広告
Advert of jx-word TaroAdvert of Ichitaro
(月刊アスキー 1985年3月号) (月刊アスキー 1985年12月号)

○PC-9801UV2 (1986年4月発表)(318,000円)
PC-9801UV
(日経コンピュータ 1986年10月27日号)

主な特徴は小型筐体、2台の3.5インチFDD、完全実装のVRAM(12KB+128KBx2)、"PC-9801-26"相当のサウンド機能。
最初の3.5インチFDD搭載モデル"PC-9801U2"(1985年5月発表)はさまざまな問題を抱えていたが、それを改善して投入された本機は安価だったこともありホビーユーザーに好まれた。

○PC-9801VX01/21/41 (1987年6月発表)(VX01: 353,000円、VX21: 433,000円、VX41: 630,000円)
PC-9801VX
(月刊アスキー 1987年8月号)

1987年4月にセイコーエプソンから最初のPC98互換機"PC-286 model 0"が発売され、それを受けてNECはすぐにCPUや画面描画処理を高速化した新機種"PC-9801VX0/2/4"(1986年10月発表)を発売した。
この広告にある"本物"は言うまでもなくNEC製のPC98を指している。

○幻のEPSON PC-286 MODEL1/2/3/4の広告
EPSON PC-286 model 1,2,3,4
(日経コンピュータ 1987年4月27日号)

1987年3月にセイコーエプソンから初めて発表されたPC98互換機。これがPC98の違法なコピーでないことをNECに確認させたところ、BIOS ROMに類似点が多いということで裁判沙汰になり、発売を取りやめることになった。4月末に、別部隊が並行して開発していたクリーンなBIOS ROMに差し替えて"PC-286 model 0"として発売された。しかし、BASICを搭載していなかったためそれを必要とするソフトが使えず、互換性はいまいちであった。同年9月になって"BASICサポートROM"が発売され、ついにBASICレベルでPC98との互換性を確保した。

○EPSON BASICサポートROM
EPSON BASIC Support ROM
(日経コンピュータ 1987年9月28日号)

○PC-9801RA2/5 (1988年7月発表)(RA2: 498,000円、RA5: 736,000円)
PC-9801RA
(月刊アスキー 1988年9月号)

PC-98XL2を経て、PC98の主力機種では初めて32ビットCPU"Intel 80386"を搭載。80386の新機能に対応した”日本語MS OS/2”や"日本語MS-WINDOWS/386"が同時に発表された。しかしまだN88-BASIC(86)やMS-DOSが主流であったため80386の機能を十分に活用できる機会は少なかった。
PC-9801RAからPC-9801FXまでに付属したキーボードはキータッチが優れているため、PC98ユーザーから非常に好評だった。キーボードの詳細はこちらを参照。
PC-9801RA RDFキーボードを分解する

○1988年のPC98販売店の広告 (コンピュータバンク)

時をさかのぼって1986年、東芝からラップトップ型PC/AT互換機"J-3100"が発売され、日本のPC市場に大きな衝撃を与えた。これを受けてNECは急遽PC98のラップトップ機"PC-98LT"を開発するが、いち早く市場に投入するために互換性を犠牲にすることになった。PC98の機能をまとめたチップセットの開発は難航し、2年後になってようやくPC98完全互換のラップトップ機"PC-9801LS"を発売した。

○東芝 J-3100B11/B12 (1986年10月発表)(B11: 498,000円、B12: 698,000円)
Toshiba J-3100
(日経コンピュータ 1986年11月10日号)

○PC-9801LS2/5 (1988年10月発表)(LS2: 628,000円、LS5: 866,000円)
PC-9801LS2/LS5
(月刊アスキー 1988年12月号)

NEC最初のPC98完全互換ラップトップ機だが、これより前の1987年11月にEPSONからPC98互換ラップトップ機"PC-286L"が発表されている。最も特徴的なのは表示装置としてプラズマディスプレイ(PDP)を採用していることだろう。
当時の液晶ディスプレイはコントラストや応答速度が悪く、使いにくかった。それに比べてプラズマディスプレイは視認性がよく、コントラストが良好なため多階調表示が可能だった。色は8階調のグレースケールと聞くとしょぼいが、当時はカラー液晶が1000万円以上すると言われていたので仕方がないだろう。

単色プラズマディスプレイについてネット上にあまり情報がないので補足しておく。発行させる仕組みはプラズマディスプレイ - Wikipediaに掲載されているとおりである。コンピューターの表示装置としてのプラズマディスプレイの歴史は意外にも古く、1970年代前半までは省スペースかつCRTディスプレイよりも仕組みが簡単で安価だったということで、そこそこ使われていたようだ。その後CRTディスプレイの方が安価になり、パソコンが登場する頃にはほとんど使われなくなった。それでも1990年頃までは省スペース化を目的として使わることがあった。印象に残ったのは1983年にIBMから発売された"3290パネル表示装置"という端末で、長い間研究してきたことを大々的に宣伝していたのを覚えている。(外資企業のメインフレーム関連に興味がなかったので広告をスキャンしていません。上げられないのが残念。)

○1989年頃のコンピューターのラインナップ

区分/メーカー 日本電気(NEC) 富士通 日本IBM
スーパーコンピュータ SXシリーズ FUJITSU VPシリーズ (該当なし)
メインフレーム ACOSシリーズ FUJITSU Mシリーズ システム/370
オフィスコンピュータ S3100シリーズ FUJITSU Kシリーズ AS/400
ワークステーション EWS4800シリーズ FUJITSU Gシリーズ RS/6000
オフィスパソコン N5200シリーズ FMRシリーズ パーソナルシステム/55
ビジネス向けPC PC-9800シリーズ
家庭向けPC FM TOWNSシリーズ (該当なし)

上記以外の国内メーカーのラインナップ

区分/メーカー シャープ ソニー 東芝 三菱
オフィスコンピュータ OAシリーズ (該当なし) V-7000 MELCOM80
ワークステーション IXシリーズ NEWS AS4200 MEシリーズ
ビジネス向けPC AX386 QuarterL J-3100 MAXY
家庭向けPC X68000 (該当なし) (該当なし) (該当なし)

NEC EWS4800
EWS4800
(日経コンピュータ 1986年11月10日号)

NEC PC-8801FE
PC-8801FE
(月刊アスキー 1988年12月号)

富士通 FMRシリーズ(FMR-60FD/HD,FMR-50FD/HD)
Fujitsu FMR Series
(月刊アスキー 1987年3月号)

富士通 FM TOWNS
Fujitsu FM TOWNS
(月刊アスキー 1989年4月号)

シャープ パーソナルワークステーション AX386/286L
Sharp AX386/286L
(月刊アスキー 1988年12月号)

シャープ パーソナルワークステーション X68000
Sharp X68000
(日経コンピュータ 1987年7月20日号)

○PC-9801FA/FS/FX (1992年1月,5月発表)(全3モデル16機種)
PC-9801FA/FS/FX
(月刊アスキー 1992年8月号)

3.5インチHD、FDD、MO、CD-ROM、メモリカードリーダライタなどの各種ファイル装置を簡単に実装できるファイルスロット(独自規格)が採用された。

当時、PC/AT互換機で日本語が表示できるようになるDOS/V(IBM DOS バージョンJ5.0/V)が発売され、それが動くPC/AT互換機、いわゆるDOS/Vマシンが注目を集めていた。今ではほとんど聞かなくなった、ASTリサーチジャパン、コンパック、西友、日本DEC、ユーロテック(金亀電子)などが早々にDOS/Vマシンを発売した。ソフトウェア資源の豊富さで依然PC98が優勢であったが、コストパフォーマンスの良さと話題の日本語MS-Windows 3.0が快適に動くということで、少しブームになった。ただし、DOS/VマシンがPC98を圧倒するのはWindows 95が発売されてからになる。

次はPC98とDOS/Vマシンのローエンド機、パフォーマンス機、ハイエンド機のスペック比較表。

型番 PC-9801FX2 PC-486GR PC-H98m90-100 Tiny PRO 286 JD1994DX2-50LB 486-50LJ
メーカー 日本電気 エプソン 日本電気 ロンロー プロサイド Polywell(アークブレイン)
発売日 1992年5月 1992年6月 1991年12月 1992年2月 1992年6月 1992年5月
CPU 386SX 12MHz 486SX 25MHz 80286 16MHz 486DX2 50MHz 486DX 50MHz
メインメモリ 1.6MB 3.5MB 1MB 8MB
FDD 3.5インチ x 2 または 5インチ x 2 3.5インチ x 1 3.5インチ x 1、5インチ x 1
HDD なし SCSI 100MB なし IDE 215MB IDE 200MB
グラフィック PC98ノーマル PC98ハイレゾ SVGA SVGA(ET4000) SVGA(S3 86C911)
表示解像度 640x400 1120x750 800x600 1024x768 1280x1024
拡張スロット Cバス x 4 Cバス x 3 NESA x 4 ISA x 2 ISA x 5 ISA x 8
定価 278,000円 458,000円 1,145,000円 138,000円 427,000円 728,000円

1992年のパソコン販売店の広告 (パソコンプラザNiC)
Advert PC shop in 1994
(月刊アスキー 1992年8月号)

日本IBM PS/55Z 30U SLC (5530-UA1: 540,000円、5530-UA4: 620,000円)
IBM PS/55Z 30U SLC
(月刊アスキー 1992年8月号)

エプソン PC-486GR/GF
EPSON PC-486GR/GF
(月刊アスキー 1992年8月号)

1990年代初頭、Microsoft Windows 3.0が登場したことによって"マルチメディア"が注目され始める。XGAやSVGAの高解像度表示、Sound Blaster Proなどのマルチメディアを利用するための環境が整ったPC/AT互換機に対して、PC-98では640x400ドット16色表示とFM3和音のサウンド機能などと非力であった。
1991年10月にマルチメディア機能を特化した"PC-98GS"が発売されるが、専用ディスプレイとセットで実売価格が50万円以上になり、高価だったため普及しなかった。その間にエプソンからハイレゾモード(1120x750ドット)を装備した主力モデル"PC-486GR"が発売。日本IBMからはXGA/A(1024x768ドット)を搭載して、同社にしてはコストパフォーマンスが優れた"PS/55Z 30U SLC"が発売され、対してPC98の勢いは衰えたかのように見えた。
この状況を踏まえて、1992年10月にPC-98GSの一部の仕様を引き継いだ"PC-9821"が発表された。

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